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福岡高等裁判所 昭和63年(う)129号 判決 1988年6月16日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中四〇日を原判決の懲役刑に算入する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は弁護人緒方研一提出の控訴趣意書に、これに対する答弁は検察官林信次郎提出の答弁書に各記載のとおりであるから、これらを引用する。

右控訴趣意(量刑不当)について。

そこで、記録を調査して検討するに、これに現れた犯行の動機、態様、罪質、被告人の年齢、性格、経歴、前科など、とりわけ本件は、密売目的による覚せい剤の密輸入の事犯であるところ、右密輸入にかかる覚せい剤の量は約二キログラムという大量なものであり、その密売による多額の利益が予定されていたこと、被告人は本件覚せい剤の密輸入の首謀者であることなど、原判決が量刑の理由の項において掲記するところの犯情に鑑みるときは、被告人の刑責には軽からざるものがあるといわなければならず、また、覚せい剤取締法四一条二項の罰金併科の規定の趣旨は、違反行為により得た不法利益を剥奪する点にあるのではなく、営利の目的によるこの種の犯罪が経済的に引き合わないことを強く感銘させて再犯の防止を期する点にあることを考慮するときは、本件密輸入にかかる覚せい剤が押収されているため、被告人はこれによる利益を得ていないことなど所論指摘の諸事情を被告人のために参酌してもなお、原判決の被告人に対する刑の量定は、その刑期及び罰金額のいずれの点においても相当であってこれを不当とする事由を発見することができない。論旨は理由がない。

よって、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却し、当審における未決勾留日数の刑算入につき刑法二一条を、当審における訴訟費用を被告人に負担させることにつき刑事訴訟法一八一条一項本文を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 生田謙二 裁判官 池田憲義 陶山博生)

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